quake

2004年10月15日
旦那に会いに指定された時間ギリギリに
病院へ到着した。

そこには旦那の実家から親と兄がきており、
私は何事もなかったかのように
「ご無沙汰しております」と深く頭を下げた。

「・・あ・・・あぁ・・」と
急いで頭を下げ返され、挨拶もそこそこに待合室に入る。
すでにそこに座っていた旦那に
「これ、交通費だから。」と封筒に入ったお金を渡した。

程なく名前が呼ばれ、
旦那、私が先に病室に通される。

大して寒くもないはずなのに 身体の震えが止まらない。
窓も開け放たれ、冷たいお茶が出されたが
震えが止まらず窓を閉めてもらうほど。
あまりの様子のおかしさにお茶を口に含むように言われるが
震えが止まらず半分ほどの量でもこぼしてしまうほど。

年配の看護婦に背中をさすられ、ゆっくりと口に含むと
家を出た日の出来事を話すように促された。

「そんなに寒いか?」と
また旦那の声がした。

その瞬間に私はまた萎縮してしまい
聞き取れないほどの声で
「あの・・何度も・・蹴られて・・あの・・その・・」と
何度も同じことを話していたようだった。

「もうあなたはいいから。あとはご実家の方とのお話になります。」と、
私だけ診察室を後にすることになった。

突然のメール

2004年10月14日
連絡はメールでしてください、と
旦那に言ったはずだった。

彼の家のパソコンから旦那にメールを打った。

それはとてもよそよそしく、連絡事項だけの義務的なメールだった。

返事はすぐ来ていた。

−土曜日、病院に親が呼ばれました。
一緒に話を聞いて欲しいのですぐ家に戻って下さい−

家に戻るつもりはありません。
土曜日時間を合わせて私も病院に伺います。

と、返事を打って電源を切った。

複雑な気持ち

2004年10月13日
もう追いかけてこないとはわかっていても
後ろを振り返ることができない。

複雑な思いのままバイクを走らせ
あんなになりふり構わず走った旦那の姿を思い出す。

これから彼の家に戻るんだ。
笑わなくちゃ、この出来事をおもしろおかしく話さなくちゃ、と
自分の気持ちにフタをした。

旦那をかわいそうに思う気持ちを彼に悟られてはいけない。
彼をいとおしく思う気持ちを



誰にも 悟られては、いけない。

居場所ではない、箱

2004年10月12日
玄関に近づこうとすれば黙って立ちはだかられる。
窓から出ようとすると荷物を取り上げられる。

どうしたらいいの・・?どうしたら。

こういうの、軟禁状態って言うのかな・・?
そう思い始めたらますます家にいたくなくなった。

段々余裕がなくなってくる自分に
言いようのない不安が募る。

「ここから早く出なくては」
それしか、考えられなかった。

旦那はうわごとのようにずーっと
「仲良く暮らすんだ・・仲良く・・・」と
うつろな目でつぶやいている。
そんな姿がたまらく恐ろしくなり
「いやーっ!」と叫んでその場にあった椅子を
旦那めがけて蹴飛ばした。

椅子は旦那のつま先に当たり、
「いってぇー!」と思わずひざまづいた旦那の脇をすり抜けて
一目散に外へ逃げた。

震える手でバイクのエンジンをふかし
思いっきりアクセルをふかした。

信号で一旦停止し
おそるおそるミラーを覗くと走ってくる旦那が見えた。

怖い、神様、助けて。

ただ、怖かった

2004年10月11日
お気に入りのソファーに深く腰を下ろし、
深くため息をついて顔を上げた。

ずっと後ろをついてきていた旦那が
「話合いをしよう」と持ちかけてきた。

「今までと同じ話はしたくないの。これからのことを
きちんと見据えた話ならしてもいいけど・・?」と
まっすぐ旦那の目を見て言った。

「何言ってんだよ。仲良く暮らすための話合いだよ・・・」
と、また目をぎゅっとつぶりながら言っている。

「もう、いいよ・・・。疲れたから・・・」と一言だけいい、
ソファーにそのまま身体を預けた。

激しく身体を揺すられ、
「仲良く暮らすための話し合いをするんだ・・・するんだ・・・」と
うわごとのように言われ続け、
私はまた家を抜け出す瞬間をこっそり狙っていた。

鋭い刃

2004年9月29日
「で、いつまでいるの?」
そう言う彼の言葉が私を少しずつ切りつける。

通いなれた彼の家でも
いつものシャンプーやボディーソープじゃないと
なんとなく気持ちが悪い。
基礎化粧品も少ししか持ち出してないことを思い出し、
一旦自宅に帰ることを彼に告げて帰宅した。

自宅に戻りメーターを確認する。
時間は朝の9時過ぎ。普段なら旦那は家には居ない時間。
ドアに耳を付け、生活音を聞き取ろうとする。
メーターの回りも遅い。

そーっとドアを開け、中の様子を窺うと
寝ている旦那の頭が見えた。

「やばいっ!!」

そう思ったがもう遅く、
すでに起き出して走ってくるのが見えた。
震える手でドアを閉め、走り出したはずなのに
すぐに捕まってしまった。

哀願するような視線で見つめられる。

「とりあえずお風呂に入らせて。そこからゆっくり話をしよう」と
そう伝え、服を脱いだ。

私がシャワーを浴びている間、
擦りガラスの向こうに旦那の影がずっとあった。
「逃げないように監視してるつもりなのかな・・・・。」
また旦那の異常性を垣間見た気がした。

大きな声

2004年9月28日
彼の前ではそうそう露骨な顔もしてはいられない。
今日してきたことを淡々と話し
いつものように食事を摂り 私たちは眠りについた。

本当なら抱きしめてもらいかった。
本当なら今日だけは甘えさせて欲しかった。

そうしてくれなかったのは、
きっと彼にも何か思うことがあるはずだから。

彼の寝息を確認した後
たまらなく寂しくなった。

涙が、止まらなかった。

理由は、わからなかった。

不安定な時間

2004年9月27日
彼の家へまっすぐ向かうことも出来ずに
私は少し遠回りをすることに決めた。

電車に乗り、窓の外を見つめ
今日したことにぬかりはなかったか、
これからのことをどうするか
仕事のこと、彼のこと、旦那のこと・・・。

答えが出ないばかりか
何の解決も打開策も見つからない。

電車から見える風景を眺め
何を考えるでもなくぼんやりとしていたはずなのに
ひとりぽっちになってしまうかもしれない不安に
思わず涙がこぼれた。

今向かっているのは彼の家だというのに・・・。

彼が私を受け入れることはないのかもしれない、と
この時私は感じていた。
不安はきっと離婚ではなく、彼のことだと確信した。

澄んだ空気

2004年9月26日
供述をし、書類が作成され
「これで裁判所からの要請があればいつでも命令が執行されます」と
そういわれた瞬間にほっとした。

これで今出来ることは全て終った・・・。

警察を出た瞬間に大きく深呼吸をし、
落ち着いて彼に電話した。
携帯がなくても彼の番号だけは指が覚えてる。
「うん・・終った・・帰るね」

それしか言えなかった。たくさん考えることがありすぎて。

もし退去命令が出されたなら
私が家にいる2週間の間、旦那は家に入ることすら許されない。
会社の人との人間関係がうまくいかないことはわかっている。
実家も遠い。頼る人もいない。
その状況を知っている私なのにそんなことをしてもいいものなのか。
私の半径5メートル以内に近づくことも許されない
ストーカー対策の条例もある。
これも地裁で申し出ることが可能だ。

今になって旦那のあのすがるような目が思い出される。

怖い・・・怖い・・・・

私も、そして旦那も。

痣と傷

2004年9月25日
やっぱり、やれるだけのことはしておこう。
今までこうやって諦めて、許した瞬間に
つけこまれて毎回後悔してきたんだから。
今できる全てのことをやりつくし、
いつでも戦える準備をして
私は旦那に立ち向かわなければならない。

自分にそう言い聞かせ、警察へ向かった。

入り口に立つ警察官に軽く会釈をし、
中に入り詳しく話を聞かせて欲しいといわれる。
めんどくさそうにメモを取る警察官に
話を聞いていた人が耳打ちする。

「相談に来た、っていう事実を裁判所に出すだけなんだから
何もそんな細かく書く必要はない。」

そうか、そういうことなんだ。
何でも手続きを踏まないと何も出来ない社会のせいで
被害者が減らないのはこういうことなんだろうな、と
他人事のようにぼんやりと手元を見ていた。

その時腰に紐をつけられた青年が乱暴に連れ込まれ、
コンビニの食事を与えられていた。
おにぎりやサラダを目の前に出されていたが
何故か箸が渡されていない。

与える前に箸の封が切られ、爪楊枝が出されていた。
ここは仮想の警察ではなく、本物なんだ、現場なんだ。
たまらなく怖くなった。

ゆるむ決断

2004年9月24日
さっきまでは、
そうたった2時間ほど前までは
あんなに煮えくり返っていた私の感情も
度重なる手続きのせいか続かなくなっている。

今まで一緒に暮らしてきた5年間を振り返ると
やはり情がある。
悲しかったことばかりでも辛かったことばかりでもなかった。
旦那がいなければ私は今でも
世間の事も何も知らない、平和ボケした
ただの田舎の一人の女だったのかもしれないから。

旦那と結婚して転勤をしたせいで
世界観が変わったのは確かだ。
いろんな仕事があること、都会と田舎の違い、
旅行ではわからないその土地土地での生活など
得たもの、影響したものはたくさんあった。

ふと、彼を思い出し
警察に行く前に電話をしてみようと思った。
彼の声を聴けばまた私は
旦那と戦うことを選ぶと思うから。

歩きなれた街並みを早足で歩きながら
彼の携帯番号を頭の中で復唱していた。

真新しい建物の匂い

2004年9月23日
冷たいイメージを抱いていた地方裁判所は
家庭裁判所とは少し違った趣で
警備員も中にいる人も待合室にいる人でも
なんとなく落ち着いて見える。

受付に向かうと大きめの制服を着た
まだ幼さの残る男の人に説明をうける。

あぁそうだった、退去命令だった・・。

普通のオフィスとなんらかわらない事務所の中。
その机の合間を縫うように奥へ進めと促される。

仰々しい書類を並べられ、淡々と説明を受けると
旦那に対してそこまでしなければならないのか?と
自分の中で疑問符が浮かぶ。

確かに旦那は私に対して
言葉も、肉体的にも暴力を与える。

急に情が沸いてきて、なんとか命令を出さないように
回避策を尋ねていた。

「この退去命令を出すには警察での相談実体が必要なんです」

そうか、警察に相談するまでは
このままでいいわけね・・・・。

わかりました、またきます。と
書類を脇に抱え、地裁を後にした。

あいまいな記憶

2004年9月22日
シェルターの相談をしに窓口へ向かった。
私のように今まで仕事をし、僅かながらのお金を持った人は
基本的には受け付けてくれないらしい。
さんざん説明され、あなたは資格外だと告げられ
挙句の果てに施設はいっぱいで入れないという。

何のためにここに来たんだろう。
力任せに公衆電話の受話器を握っていた腕が痛い。
落ち着く為にそばにあるイタリア料理の店に入った。
コーヒーの香りをいっぱいに吸い込むと
何か大切なことを相談員が話していたはずだ、と
気になり始めた。

確か・・・義務・・・?
指定・・・?命令・・?

コーヒーの泡が消えないうちに
席を立って地方裁判所へ向かった。
血液が沸騰するような怒りに震えながら
番号を慎重に押した。
一回、二回と鳴るコール音に合わせてゆっくり深呼吸をした。

受付の女性の無機質な声に
私も冷静さを取り戻し、ゆっくり旦那の名前を伝えた。

「もしもし・・・?」と
いつもの聞きなれたしり上がりのアクセントで
旦那が呼び出しに答えた。

「なぁ?何がしたい? ねぇ 何が目的?」と
はなっからケンカ口調で話し始めた。
「いいから、わかったから、とにかく家に戻ってきて・・・」
と、弱弱しく話す旦那にますます腹が立ち、
「一体なんなのよ!家に帰るつもりなんてない!
どういうつもりかわからないけど、あなたのしたことで
私はこの瞬間から職なしよ!この会社に入るまでにどんな思いして
どんなにいろんなこと我慢して入ったと思ってる?
あんたの一言でもう何もかもおしまいなんだから!
こうして家のことでもめてるのも会社の人にバレたじゃない!
これで気が済んだ?何もかもあたしから失くしたんだから!」
と、旦那の声を遮るように大きく怒鳴った。

「だって・・・。そんな風になると思わなかったんだよ。
だって・・・携帯もつながらないし・・・。
連絡も取れないし、会社に電話するのが普通だろ?
俺は会社の人に相談したよ、それで電話しようと思ったんだ。
どんなことをしてでも今連絡取らなければダメになる、
そう言われたから・・・。だから・・・まさか・・・
そんな風になるなんて思わなかったんだよ・・・」

「もう、いい!とにかく会社に電話しても
あたしは会社にはいれなくなったから!
今から考えられる全ての行動を起こすわ。あんただって
無傷でそこにいられると思わないことね!」と
ありったけの力で受話器を叩きつけた。

       

2004年9月21日
取り急ぎひみつのみ
法律相談、なんて形だけのもので。
何の解決にもならない話を聞きながら
私は自分の保身を必死に考えていた。

旦那のことを考えると身体の震えが止まらない。
それを知ってか知らずか、シェルターの話をされる。

シェルター・・・・?

家庭内暴力などで身の危険を感じた場合の
避難場所のようなものらしい。
ただし社会からは完全に遮断され、会社に行く事もできない。
外部への連絡も一切取れない、という
まるで刑務所のようなイメージの施設。
着のみ着のままで逃げた人への救済措置の一つらしい。

相談所で相談することが大前提だと言われ、
所在地のメモを渡された。

なんで・・・こんな・・・

気がつくと旦那の会社へとプッシュボタンを押していた。

こみ上げる感情

2004年9月19日
逃げるように会社を後にした。
血液が沸騰するような感覚は治まらない。

一体、今何が起こっている?
一体、旦那は何がしたい?
一体、一体・・・・?

頭がぐるぐる回る。
何も考えられない。

とりあえず電話をしようと公衆電話を探す。
ふと、目にとまった法律相談。
突然職を失った私は迷わず窓口に向かっていた。

面談の時間まで少しある。
誰かと話していないと自分が保てなくなりそうで
公衆電話に向かい呼吸を整える。
実家に電話をし、あふれそうになる涙をこらえて
少しずつ今の状況を話し始めた。

話している間にさっきまでの言いようのない感情が
怒りのものだったことを知る。
電話の声を遮るように受話器を置き、
旦那の職場の電話番号を調べた。

通告

2004年9月18日
私を見た瞬間ガサガサとあわただしく履歴書を折りたたみ
奥に座るよう促された。
3人は顔を見合わせ、誰が話し始めるのかを目で合図しているようだった。

「これからの事なんだが・・・」と
支店長が話し出し、私は冷静に受け止めようと
小さく深呼吸をした。

「さっき、旦那さんから電話が来た。
君が言うように今日のところは休んでる、と言ったんだが
会社側からすると嘘はつけない。
電話の対応をした者が言ってたのだが
『絶対いるはずだ、責任者を出せ』と言われたそうだ。
君は一生懸命仕事もするし、まぁ・・・アレなんだが・・・
会社としても問題は起こされたくないんだ。
君はどう思うんだ?この事について」

「どう、と言われましても・・・。」

「とにかく会社としては問題を起されたら困るんだ。
嘘をつくわけにもいかないから、家庭の問題が落ち着くまでは
会社にはこなくていい。
もう午後から帰りなさい。しばらくしたら会社に電話をしなさい。
その時に今後の話をしよう。」

危険因子はいらないってことですね。

あわただしく非常事態に備えるフロアの雰囲気に
気づかないフリをしながら
私は身の回りの整理を始めた。

この時初めて身体中の血液が
沸騰するような感情を覚えた。

まずはひみつです

2004年9月18日
        

呼び出し

2004年9月17日
次々と増える書類に埋もれながら
順番に数字を並べていく。
二つ目の書類を仕上げたあたりに
私への内線がかかってきていた。

「すぐ総務に行って下さい」
そう言われたのはわかっていた。
手にした書類を渡しに走り、その後で向かおうと思っていた。
一言、二言言葉を交わし、階下に降りる。
自席に戻ると、なんだかみんなの様子がおかしい。
「早く行った方が・・・・」と諭され
早足で総務に向かった。

そこには私の履歴書が広げられ、
支店長、補佐、部長が揃って私を待っていた。

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